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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7945号 判決 1961年10月25日

原告 武藤安五郎

右代理人 会田惣七

右訴訟復代理人 山田徳治

被告 三陽電線株式会社

右代表取締役 村上収

右代理人 永井由松

主文

被告は、原告に対し金五一万円とこれに対する昭和三五年一〇月二六日からその完済にいたるまでの年六分の率による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

第一項の裁判は、原告においてその執行前金二〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張のイ、ロ、ハ、ニ、ホの五通の約束手形を原告が所持することは、当事者に争いがない。また、右ロ、ハ、ニの約束手形が被告振り出しにかかることも当事者間に争いがない。

被告は、第四回口頭弁論期日において、右イ、ホの約束手形についても被告の振出し手形であることを認めたが、第六回口頭弁論期日においてその自白を撤回し、右イ、ホ手形の振出行為を争わんとしたが、原告はその自白の撤回に異議を述べた。それで、被告の右自白の撤回が許容できるものか否かについて考察する。

本件記録に徴すると、被告提出の答弁書では、右イ、ホ手形の振出行為を認めているが、被告代理人は、第一回口頭弁論期日においても、右答弁書を述べず、前示イ、ホとその余の約束手形全部の振り出し行為を否認し、さらに、第四回口頭弁論期日において、右否認の陳述をひるがえして右五通の約束手形全部の振出事実を認める旨述べている。そして、その間、右第二回口頭弁論期日において、前示イ、ロ、ハ、ニ、ホの各手形である甲第一号証ないし第五号証が提出され、それについて、いずれもその成立を否認し、ただ振出人の記名は被告会社使用のゴム印によるものであることを認め、また、第四回口頭弁論期日においては被告申請にかかる証人高島喜代治の第一回証言がなされ、同人に対し右甲第一号証ないし第五号証が示されていることは明らかである。

しかるところ、被告は右第四回口頭弁論期日における右イ、ホ約束手形の振出行為についての自白を第六回口頭弁論期日において撤回せんとするものであるが、原告がこれに異議を述べる以上被告の右自白が事実に反するもので、かつ、それが錯誤に出たものであることが証明されなければならないが、かりに右自白が、その後の証人高島喜代治、被告会社代表者村上収の各第二回尋問によつて、真実に反するものであることが証明されるとしても、なお、右自白がなされるにいたつた前示経過に徴すると、被告訴訟代理人は、すでに原告主張の請求原因事実を十二分に検討の上前示認否に及び、しかもそれが一転二転するにいたつたのであるから、第四回口頭弁論期日における前示自白は前敍のとおり証人高島喜代治の尋問もなされた後で被告は、あえて自白行為をなしたものと認めるのを相当とするから、その自白行為には錯誤が介在したものとはとうてい認められないので、被告の自白の撤回はこれを認めることができない。

したがつて、原告主張のイ、ホの約束手形についても、それらが被告振出しにかかるものであることに争いがないものとなり、被告のそれらが偽造手形であるとの主張に判断をすすめることはできない。

しかるところ、被告は、右約束手形五通を、原告が被告を害することを知りながら取得したものであると抗弁する。

証人高島喜代治の第一回証言と被告代表者村上収の第一回尋問結果により真正に成立したことが認められる乙第一号証と証人高島喜代治の第一回証言や右村上収の第一回尋問結果によると右ロ、ハ、ニの約束手形が被告主張通りの経過で被告会社代表取締役の村上収が前示高島に対し交付した白地手形の補充完成された約束手形であることを認めることができる。また右イ、ホ手形が右ロ、ハ、ニの約束手形と同様の経過で前示高島に交付された白地手形の補充完成された手形であることについては、被告主張にそう右高島の第一回証言や右村上収の第一回尋問結果の各一部は、右高島の第二回証言にてらしてすぐ信用することができず、他に右主張を認めることができる証言がないので、さらに判断をすすめるまでもなく、この両手形についての抗弁は採用することができない。

しかるところ、原告は前示ロ、ハ、ニの各約束手形を取得するに際して、それら手形は被告が右高島に対し銅線買付のための代金支払のため交付したものであつて、右高島がほしいままにこれらを原告に対する旧手形の書きかえ手形として原告に差し入れることのできないものであり、被告は右買付ける銅線の入荷がない以上その支払を拒むことができるものであることを承知しながらこれを取得したものであると被告は抗弁し、右ロ、ハ、ニの約束手形については、証人高島の第二回証言の一部が右抗弁にそうがその部分は同証人の第一回証言にてらしてすぐ信用することができず、他に右抗弁事実を認定することができる信用すべき証拠がない。

そうすると、被告の前示ロ、ハ、ニ手形に対する抗弁も理由のないこととなり、原告が前示イ、ロ、ハ、ニ、ホの各約束手形の所持人としてその振出人たる被告に対しそれら手形金合計五一万円とそれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌月である昭和三五年一〇月二六日からその完済にいたるまでの商法所定の年六分の率によりその遅延損害金の支払を述べる原告の請求は理由があり、これを正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西岡悌次)

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